基礎科目概要
技術士一次試験の出題分野は以下の5つの群に分かれる。
- 設計・計画に関するもの:設計理論、システム設計、品質管理など
- 情報・論理に関するもの;アルゴリズム、情報ネットワークなど
- 解析に関するもの:力学、電磁気学など
- 材料・化学・バイオに関するもの:材料特性、バイオテクノロジーなど
- 環境。エネルギー・技術に関するもの:環境、エネルギー、技術史など
それぞれに対して6問ずつ出題され、3問ずつの解答が要求される(15問/30問)。合格条件は50%であり、過去問題の類似問題が多い。このため、過去問題の出題系統に着目して、必要な知識を身につけることが要求される。
4. 材料・化学・バイオ
4.1. 材料特性
■分類
- 構造材料
- 材料の力学的特性を利用したもの
- 機能材料
- 材料の非力学的特性(電気的、時期的、熱的、光学的)を利用するもの
■結合
- 原子間結合
- イオン結合:静電気的引力による結合、方向性は弱い。NaCl, CsClなど
- 共有結合:価電子の共有により、最外殻が電子で満たされることにより安定。方向性は強い。C, SiCなど\
(補足:SiCは機械的強度はSiの約3倍であり、素子の厚さは1/10程度であり、熱抵抗がさらに小さくなり、放散性が向上して小型化に有利と考えられている) - 金属結合:電子雲を形成する価電子を同種の原子の集団が共有することによりする結合。方向性はない。
- 水素結合:双極子による弱い結合。方向性があり、高分子の分子間結合もその一つ。
- ファンデルワールス結合:原子内の分極による弱い結合。方向性はない。
- 結合の強さの順序としては、イオン結合>共有結合>金属結合であり、水素結合とファンデルワールス力結合は前述の3つと比較すると著しく小さい。
■材料設計
- 複合材料の弾性率:$E=K(E_mV_m+E_fV_f)$
- K:修正係数
- $E_m$:マトリックス弾性率
- $E_f$:ファイバ弾性率
- $V_m$:マトリックスの体積分率
- $V_f$:ファイバの体積分率
4.2. 化学
■物理化学および工業物理化学
- 原子構造
- 原子核と電子から構成
- 波動関数は($n, l, m, m_s$)の量子数で表現される
- $n$:主量子数。軌道の大きさとエネルギーを決める。
- $l$:方位量子数。軌道の形を決める。
- $m$:磁気量子数。軌道の空間での配向を表す。
- $m_s$:スピン量子数。電子の自転の方向。
- 化学熱力学
- 第一法則:エネルギー保存則
$$
\Delta U = Q – W
$$
状態関数は系外から入ってきた熱量と系が外部にした仕事の差分によって決定される - 第二法則:エントロピー増大の法則
$$
dS = \frac{dQ_r}{T}
$$
エントロピーは自発的変化の方向性/不可逆性を定量的に表す状態量。系が準静的に熱$dQr$を吸収していることを表す。不可逆過程で$dQ{ir}$熱を吸収する場合は以下。
$$
dS > \frac{dQ_{ir}}{T}
$$
- 第一法則:エネルギー保存則
- 化学平衡と反応速度論
- 反応速度式\
反応速度はその反応に関与する物質の濃度の関数で表される。$C_A$を濃度とすると、反応速度$r$は
$$
r = -\frac{1}{a}\cdot\frac{dC_A}{dt}=k_r\cdot f(C_A, C_B, C_P, C_Q)\quad(k_r:\ 反応速度定数)
$$
と表現される。 - アーレニウスの式
$$
r = A\exp\left(-\frac{E_a}{RT}\right)
$$
$A$:頻度因子、$E_a$:活性化エネルギー、$R$:気体定数、$T$:温度。 - 化学平衡\
平衡の近傍では逆反応も生じる。
$$
aA + bB \rightarrow pP+qQ\quad\left(-\frac{1}{a}\cdot\frac{dC_A}{dt}\right)=k_1\cdot C_A^aC_B^b\
pP+qQ \rightarrow aA+bB\quad \left(-\frac{1}{p}\cdot\frac{dC_p}{dt}\right) = k_2 \cdot C_P^pC_Q^q
$$
平衡時には、両反応の速度が等しいことから平衡定数として
$$
K_p = \frac{k_1}{k_2} = \frac{C_p^pC_Q^q}{C_A^aC_B^b}
$$
が定義される。
- 反応速度式\
■無機化学/有機化学
- 錯体化学:非結合電子対を有する別のイオン、分子、多原子イオンなどが電子対を中心イオンまたは中心原子に供与することにより、安定化した塩を錯塩という。ここで形成される酸塩基結合が配位結合である。
- 炭化水素
- 脂肪属炭化水素
- パラフィン系(メタンなど)
- オレフィン系(二重結合)
- アセチレン系(三重結合)
- 芳香属炭化水素
- ベンゼンなど
- 異性体
- 構造異性
- 連鎖異性:炭素鎖の分岐の違い
- 位置異性:官能基の位置の違い
- 互変異性:異性体同士が互いに変換可
- その他、異なる機能を有する異性体
- 立体異性
- 光学異性:偏光面の回転角の変化などの光学的違い
- 幾何異性:二重結合を中心とする置換基の位置の違い
- 分子不性:分子全体としての対称性がない
- 回転異性:分子式は同じでも内部回転角が異なる
4.3. バイオテクノロジー
■生体の構成成分
- DNA, RNA, タンパク質
- 遺伝情報はRNAポリメタラーぜによりDNAからRNAに転写され、その後、真核生物では遺伝子情報をもつエクソンを繋ぎ合わせ、イントロンを除くスプライシングという過程を経て、mRNA(メッセンジャーRNA)が生成される。
- RNAはデオキシリボースではなくリボースが、チミンの代わりにウラシルが使われる。
- mRNAの情報は3塩基を1単位(コドン)として読み取られる。64通りのコドンが20種のアミノ酸と翻訳の開始および停止のいずれかに対応し、リボソーム上でtRNAを介してアミノ酸が連なったタンパク質の翻訳される。
-
細胞の分類・構成とエネルギー代謝
- 原核生物:染色体を覆う核膜がない
- 真核生物:染色体が核膜に覆われた核がある
- 細胞内小器官:ATPを生産するミトコンドリア、脂質や膜タンパクの合成を司る小胞体、巨大物質の分泌・移動を司るゴルジ体などがある。
- エネルギー代謝
- 嫌気生物:解糖系の生成物に対して、発酵等を行い、酸素を用いずに追加のエネルギーを得る。
- 好気生物:酸素を利用した効率のよいエネルギー合成を行う。
- 異化:外部の有機物または無機物を分解し、エネルギーを得てATPを合成する代謝。
- 同化:エネルギーを用いて有機物を構築し、最終的に生体高分子の生合成や増殖を行うこと
■基本技術
- 遺伝子工学
- ベクター\
遺伝子組み替え用のDNA。目的とする遺伝子をベクターの間に組み込み、大腸菌で培養させることで組み込みを行う。 - 制限酵素\
DNAの特定塩基配列を認識して切断する酵素で、遺伝子工学における「はさみ」の役割を果たす。(cf., DNAポリメラーゼは、DNAを合成する酵素) - DNAリガーゼ\
遺伝子工学における「のり」。リボソームは、タンパク質合成の場となる顆粒で、rRNAとタンパク質で構成される。 - PCR\
増幅の対象となるDNAの二重螺旋を分解し、両端に対しtえ相補な配列をもつプライマーと呼ばれるDNAを加えて相補結合する。最終的にDNAの構成酵素であるDNAポリメラーゼにより、プライマー顆粒のDNAを合成させることで1回の反応で目的DNAの量は二倍になる。 - 細胞工学
- 細胞融合\
よく用いられるのは、ポリエチレングリコールを用いて細胞間の疏水相互作用を低下させることにより、隣り合う細胞膜の融合を人為的に起こす手法。 - クローンと幹細胞
- 受精卵クローン:2, 4, 8細胞期と卵割した受精卵細胞を分割しても、それぞれの胚から1匹の動物ができる。
- 体細胞クローン:体細胞の核を取り出し、未受精卵の核と入れ替える。
- 幹細胞:多能性と自己複製能をもつ細胞。ES細胞は受精卵由来の細胞株であり、分化能を保ったまま増殖可能(ただし、受精卵を壊すという倫理的問題あり)。iPSは分化後のいくつかの細胞に遺伝子を導入することで多能性を持たせている。
■応用
- 医療
- テーラーメイド医療:個人に合わせた医療(SNPsをマーカとして利用し、体質などによる違いを判別する)
- その他、農業、工業、環境にも適用されている。
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